はじめて彼に抱かれたのは、もう1年近く前のこと......。
時々、ふと思い返しては感傷にため息する。
ほろ苦いはじまりと....もう決して離れることのできない今を。
鳩羽優-----。
同じクラス委員で....宝条では何年ぶりかの奨学生で....悪い噂の中でも成績はやっぱり優秀で......。
委員の仕事がきっかけで話すようになって、いつの間にか私たちは打ち解けていった。
ちょっと不良っぽいところがあるのかと思っていたけど、わりと真面目に委員会には出席して、私が苦手なホームルームの司会やクラスをまとめる役目も表に立ってやってくれた。
気づけば、私が困っているとき、さりげなく手を差し伸べてくれる....。
ぶっきらぼうで口は悪いけど、優しい人なんだと思う......。
初等部から一緒の学院生たちと彼はやはりどこか違っていて、私たちが知らない世界を見てきたような....いろいろなことを受け止めてくれるような....そんな気がした。
そう思ったから、つい苦しい胸のうちを吐き出してしまった。
子供の頃から見つめ続けてきた穐に好きな人ができてしまったこと。
自分がどれだけ絹のために穐への気持ちを押し殺してきたかということ。
いつも若狭の名前の前に、誰かに弱みを見せることを許されなかった私。
親しい女友達にさえ話せなかった悩み....。
なのに彼とふたりきりで向かい合って、後から後から言葉が溢れてきた。
おかしいくらいに。
ついこぼれてしまった涙を拭き取ってくれた瞬間、彼は悲しいような怒ったような苦しげな表情をした。
....そして、突然、彼の態度は一瞬にして豹変した。
力づくで私の肩を掴み畳の上に押し倒された。
何が起こったのかわからなかった......。
別人のようになった彼の瞳の中に暗い光が宿っている。
一瞬にして凍りつく私の身体。
怯えと不安が身体中を駆け巡ったけれど、いつしか私は彼の腕の中に捉えられていた......。
逃れ、拒んでも身動きができない。
叫ぼうとする私を抑えつけ、無理やりに奪う......。
信じていた人に裏切られて茫然とし、痛みが身体を突き抜けていく-----。
思わず穐の名を呼んだ瞬間、彼はいっそう激しく私を貫いた。
まるで穐の存在をかき消そうとするかのように....。
全てが終わった後、彼はポツリと言葉を漏らした。
「俺以外の全てを忘れちまえよ......」
独り言のようなその呟きの意味が、そのときにはわからなかった。
ショックに打ちのめされていた私の心を、ただ素通りしていくだけだった。
........けれど今、思い返したその言葉が胸にずしりと響く。
私たちはそれからいくつかの誤解とためらいと涙を通り過ぎてきた。
あなたの本心が掴めず、ただ情欲に流されたまま時を重ねたこともある。
でもやっとわかった。
はじめて出会ったときから、あなたの想いは一貫していた。
私をただ一人の女として見てくれていたこと。
家柄も肩書きも何も関係無い、ありのままの私を愛してくれたこと....。
本当に、貴方以外の全てから解放されてしまいたい......。
抱き合ったまま、ふたりだけで溶けてなくなってしまってもかまわない。
いつの頃からだろう。
そんなふうに思うようになったのは。
どうしてこんなに、あなたでなければいけないのか.....。
どうしてこんなに、胸が痛いのか....。
私がこの想いをうまく伝えられないからなのか、あなたは焦り、私を責め、悦びと残酷を刻む。
あなたに触れられただけで、熱くなって、心も身体も縛られていく。
それは心地よく私を苛み、涸れることのない、互いへの想いを信じさせてくれる......。
はじまりは苦しくて、途惑って、涙にくれたけれど、あなたの心の奥深くに触れ、真実を見つけることができた。
あなたを愛している。
誰よりも何よりも......。
だからもう安らいで。
いつまでもそばにいるから......。
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