第一章


 「こんなの....こわい....」
 清子(さやこ)は、組紐で自分の両手首を縛ろうとする狼(ろう)に訴えた。

 「どこか不自由な方が感じやすくなる....きつすぎないか?」
 狼は縛るのをやめようとせず、尋ねた。
 「痛くは無いけど....でも....」
 「ならいい。少しじっとしてろ」

 清子は頭の上に組んだ手首を拘束されたまま、薄い布団の上に押し倒された。
 隣の部屋では狼の妹・八重子が寝息を立てている。
 眠りの深い八重子でも、大きな声を上げればいつ目覚めるかもわからない。

 徐々に着物を剥ぎ取られ、絖白い肌の上に、狼につけられた赤いしるしが浮かびあがる。
 そのひとつひとつを舐め上げられ、清子は「....あぁっ....」と忍び声を洩らした。

 「もうおまえの体中が桜色に充血してる....」
 狼が軽く笑みを湛えて囁く。
 
 息苦しかった。
 初めて手首を絡め取られ、薄明かりの下で裸身を晒す。
 あまりの羞恥にめまいを覚えそうになりながら、身体が熱を帯びてくるのがわかった。

 清子が家を出てから....そしてはじめての契りから二週間が経とうとしていた。


 大正十三年----------

 父親に政略的な見合いを言い渡された財閥の令嬢・清子は、車屋を生業として病弱な妹と暮らす如月狼と知り合う。
 トロイメライのオルゴールを狼の妹・八重子に譲ったことをきっかけに、如月家に出入りするようになった清子は、金持ちの憐れみや同情を拒絶し、何事にも媚びない狼に惹かれていく。
 一方、狼も、勝気だが思いやりのある清子のことが気になり始めていた。
 ある日、社交界デビューが決まった清子は、狼に自分のパートナーとしてパーティーに出席することを依頼する。
 お互い素直になれず、金銭を介しての関係としてパーティーに出向く二人だったが、ドレスアップした相手に目を瞠り、束の間の楽しいひと時を過ごす。
 しかし、留守番をしていた八重子が、心細さから狼を追いかけて会場に現れたことから、狼を豪商の息子として紹介していた清子の嘘が露見する。
 外出を禁止され、具体的に見合いの日程を決定された清子は家を飛び出し、狼に自分を抱いて欲しいと哀願する。
 見ず知らずの男のものになる前に、狼に愛されたかったのだった。
 前日の夜に、縋りつく八重子の手を拒絶した清子のことを許せずにいた狼だったが、プライドを全て捨てて自分に向かってくる姿に、激しく心を揺すぶられ、ふたりは結ばれる。


 紅い痕跡(しるし)を愛撫していた狼は、新たな場所をいくつも強く口づけ、吸い上げた。
 軽い痛みすら、快感に変わってゆく。
 「ア....アァ....」
 
 声を殺して喘ぐ清子に、狼が囁いた。
 「八重子に聞こえるのがこわいか? だったら俺が声を出せないようにしてやる」

 清子の口の中に指を差し入れ、咥えさせる。
 「ウ....ン....ン」
 くぐもった声で哭く清子の口から指を抜き、今度は自分の口唇を押し当てた。
 素早く舌を抉り込む。
 
 強い力で口唇を塞がれた清子は、拘束された両手の指と指を絡み合わせ、迫りくる官能に堪えようとした。

 狼は潤みきった狭間に、指を抜いては出し、抜いては出し、清子を翻弄する。
 その濡れた指で乳首を弾くと、また清子が声にならない嗚咽をもらし、切なげに身体を揺らした。
 自由にならない手首がもどかしく、溢れるばかりに自分の中心から流れていく蜜をとめることができない。

 ようやく狼が口唇を離した。
 「やっぱり縛っただけで濡れ方が違うな」
 「......!」
 露わな言葉に清子の全身が一層紅潮していく。

 「......俺も、もう限界だ......」
 そう言って、狼は戒めた手首はそのままに、清子をうつ伏せにした。
 腰を持ち上げ、抉るように強張りを叩き込む。
 「あぁーっっ......」
 その甘い衝撃で、清子は崩れ落ちた。
 
 目の前に色の無い花火が飛ぶような気がした。

 徐々に視界がぼやけていく。
 
 ....清子は気を失っていた。




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