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 「....だめ....こんなところで......」
 「大丈夫だ.....誰も気づいてなんかいない....」

 囁きながら、鳩羽は逃れようとする綾の腕を掴み、自分の傍に引き寄せた。
 綾の口から「あぁっ」という吐息が洩れる。

 「ただ....おまえに触れていたいだけだ....」
 「......鳩羽くん......」
 
 鳩羽は隣に座る綾の肩に腕を回し、指先で綾の頬をなぞるように何度も撫で上げた。
 ただそれだけの行為なのに、綾の全身に震えが走る。
 その様子を見た鳩羽は満足そうに指を首筋へと滑らせていく。
 綾の身体が朱に染まっていった......。


 窓の外を田園風景が駆け抜けていく--------
 三月。
 ようやく春らしい日が続くようになり、ふたりは卒業式の日に交わした約束どおり学院を飛び出し、旅の途についていた。
 綾を満足させたい一心で、鳩羽は高校生には少々贅沢すぎるような宿を選んだのだ。
 海の見える落ち着いた温泉地だった。

 行楽客で賑わう列車に揺られながら、密やかに鳩羽は綾に愛撫を加えていく。
 他人の目に晒されるかもしれないスリルと綾の反応を楽しみながら、鳩羽は綾の身体に覆い被さった。
 その指先ははだけられた胸元に差し入れられ、何度も優しく往復する。 
 綾は声を殺すのに精一杯で、内側から溶け出しているものをとめることができずにいた。
 そして徐々に下りていった鳩羽の指はその部分を探り当て、易々と侵入してしまう。
 濡れそぼった指を抜いては、幾度も花芽に甘い攻撃をしかける。

 「んっ....く......」
 決して声を上げるわけにはいかなかった。
 いちばん端のボックス席ではあるものの、後部や通路を挟んだ反対側には他の乗客が座っているのだから。
 押し殺しても....間断なく鳩羽は綾への愛撫をやめようとはしなかった。
 まるで二人がこれから激しく愛し合うであろう一夜の宿への序章とでもいうように......。

 
 しばらくして、ふたりが降りる駅の到着を知らせるアナウンスが響いた。

 「....タイムリミットか」
 そう呟いて、鳩羽は何事もなかったかのように身体を離した。
 綾は乱れた服を慌てて整え、ため息をつく。
 ほっとすると同時に、身体の中に残り火が燻っているような気がした。
 
 鳩羽は網棚から二人分の荷物を下ろし、片方の手でそれを担ぎ、もう片方の手を綾に差し出した。
 「行くぞ」
 綾は鳩羽の顔をまともに見ることができないまま、黙って頷いた。
 つながれた鳩羽の手は大きく、熱かった。
 まるで綾の細い白い指を離すまいとするように、力強く握りしめる。
 
 「今日の旅館は、徒歩五分くらいらしいから、歩いていくか?」
 「......ええ......」
 それほど乗降客の多くないその駅の改札を抜け、二人は手をつないで歩き出した。
 山林に囲まれた学院の周りとは空気が違う。
 さらっとした海風が頬を撫でていった。

 「気持ちいい風....素敵なところね」
 綾が微笑んで鳩羽の方を向くと、急に手に力がこめられた。

 「部屋に着いたら.....すぐにおまえのことを抱くからな」
 「えっ......」
 「もう限界だからな....覚悟しろ」

 低く呟く鳩羽の言葉に、再び綾は頬が紅潮していくのを感じた。
 列車の中での、今までに味わったことのない疼き。
 必死に押しとどめていた堰が壊れようとしていった。

 「ここだ」
 二人は、ゆるやかな崖の上に佇む宿の前に到着した......。




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