序章 巴の独白
----こんなに綺麗な女性(ひと)を、俺は見たことがなかった。
世間から隔絶された隠れた名門----宝条学院。
ガラじゃないのに、成金の親父がどうしても入学させたがった高等部の入学式で、俺はその女性を見つけてしまった。
入学式の役員・新入生の案内役・三年生を表す色のバッジ。
艶々の長い黒髪。優しそうで、潤んでいるような大きな瞳。紅い唇、澄んだ声、細い手足。
そして傍らに背の高い鋭い目の男....。
ちくしょう、何だか結構いい男じゃん。彼女となんか関係あるのか!?
俺が口をぽかんと開けてその女性を見つめているのに、幼なじみの上村が気付いたらしい。
「巴(ともえ)、口開けっ放しだぞ」
「へっ?....ああ....」
思わずヨダレが出ていないかどうか口をぬぐってしまう。
「何だよ。あの三年生に見とれてたのか?」
「〜〜〜〜〜〜(汗)」
俺が何も言えずにいると、上村は続けた。
「....確か、結構有名人だぜ。総代の相棒の若狭って人のイトコで、茶道部部長とか....」
「お前詳しいな」
「ああ、親戚が通ってるからな」
上村は俺とは違い、地元の土地やビルをいくつも持っている旧家の出で、生まれつきのお坊ちゃまだ。
小学校からの付き合いで、おとなしいが優しくていい奴だ。
ガサツで直情径行な俺とは全く性格が違うが、なぜかウマが合って現在に至っている。
「で、名前はなんていうんだ?」
「若狭....綾だったかな」
「わかさ....あや。茶道部部長だな」
それだけ聞けばもう充分だった。
その日のうちに俺は茶道部に入部届を出した。
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