----幼い頃から、幾度となくその光景を目にした。
 
 衣擦れの音....睦みあう体....押し殺そうともしない享楽の甘い声.......。

 十代で私を産んだ母は充分過ぎるほど若く美しかった。
 十歳以上も年の離れた父の留守に、何人もの恋人を引き入れ爛れた愛欲を解放する....。

 いつしか彼女は、私が慕い続けた最愛の従兄までも性の支配下に置いていた。
 ....憎い、というよりただ哀しかった。

 自らの身体を差し出して、主君・絹の誇りを守ろうとする従兄・龝。
 絹のことだけを見つめ、それ以外の全てに心を閉ざそうとして.....。
 
 そんな龝を蹂躙し、己の裡に滾る欲望のみを満たそうとする母....。
 私はそういう女の娘なのだ。

 乱れ、獣のように雄を求めるその姿----。
 私は自分の中に流れる淫蕩な血に怯えてしまう。

 母のようになりたくない。
 だからこそ、目を背けて生きてきた。
 男の人を受け入れるという現実。そして浅ましいとしか思えない欲情というものを......。




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