第六章  茶室



 鳩羽に言われた言葉------”本当の綾を見せてやる”-------
 それがどういう意味なのか。巴には見当もつかなかった。
 ただ指示された時間通り茶室に向かえばいいのか.....。
 一体何を見せるというのか......。

 悩んだ末に巴は、それを受け入れる決心をした。
 鳩羽がどんなことをするつもりなのかはわからないが、俺の気持ちは揺らいだりしない。
 行ってみよう、と。



 個人レッスンの待ち合わせ時間は5時からだった。
 上村には理由をつけて席を外してもらうことにした。
 もともと上村は特訓などする必要がないほど、マスターしていたのだ。

 4時半少し前には行ったほうがいいだろうか。
 6時限目の終了の鐘を聞きながら、巴はぼんやりと考えていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 鳩羽に呼び出されていた綾は、少し遅れて襖を開けた。
 すまなそうに言いながら茶室に入ってくる。
 「ごめんなさい、遅くなって。ちょっと生徒会長にバッタリ会っちゃって....」

 突然鳩羽は綾の両腕を掴んだ。
 「あの男に、こんな風に腕を取られたのか?」
 「鳩羽くん......」
 鳩羽の手に力が入っていく。

 「俺がちょっと目を離した隙に、あんな奴がお前にしたい放題かよ」
 「いた....い。違うわ。私たち、ずっと練習してただけよ」
 「たとえ何もなかったとしても、あいつがお前を好きだっていうのは事実だろ」
 「........」
 「俺以外の奴がお前に触れるなんて許さない、絶対に」
 そう言って、鳩羽は綾の制服のリボンを引きちぎった。
 キスもしないまま、ブラウスを剥ぎ取り、スカートに手を掛けていく。
 
 「・・・・こんな、まるで罰みたいに抱かれるのはいや・・・・!」
 綾の目に涙がにじんでくる。
 それに構わず、鳩羽の手は強引に綾の中心に達し、秘花をまさぐっていく。
 「く・・・・・・」
 綾は抵抗した。
 話を聞いて欲しかった。
 ただの一度も鳩羽を裏切ったことなどない。
 自分にとって巴は、ただの部活に熱心な後輩に過ぎないのだと。

 「もう、やめて......」
 悲しいのに、止めてほしいのに、その言葉とは相矛盾する自分がいる。
 いつしか鳩羽の指を欲しがっていたのだ。
 それに気付いた綾は愕然とした。
 「あ......やめ....て......」
 鳩羽の唇がめくれたブラウスからのぞく乳房を捉える。
 「お前の中にあるあいつの記憶も何もかもを全部追い出してやる」

 違う。
 本当に巴とは何もない。
 迷いつつも、告白されたことを正直に話したのに、どうしてわかってくれないのか。
 綾は「嫉妬」などという生易しい感情をはるかに超える、鳩羽の激情に圧倒されていた。

 「お前を罰しているわけじゃない。俺がお前を欲しいから抱くだけだ」
 「........」
 ようやく鳩羽が綾の唇に舌を差し入れ、キスをする。
 綾も自分の舌を絡ませ、互いの劣情を貪りあった。

 「立てよ」
 ともに熱い呼吸を繰り返しながら、綾は襖に手をついて立たされた。
 「もうすぐ、巴くんがくるわ....」
 涙声で訴える綾の背後から、鳩羽が腰を抑えつけ、貫いていく。
 「いいから......もっと....声出せよ」
 「あっ・・・・・・ぁ・・・・!」
 身体の中心が熱くなっていく。
 いつしか綾は、快感の叫び声を抑えることができなくなっていた。
 
 激しく突き引きを繰り返していた鳩羽が急に動きを止めた。
 「・・・・・・!?」
 切ないまでに昇りかけていた甘美な高まりを残酷に中断され、綾は羞恥心に身悶えしながら言った。
 「やめ....ないで......」
 鳩羽は微笑した。
 「さっきまであんなに拒んでたのに、可愛いな、おまえ」

 鳩羽が身体だけでなく、綾自身を深く愛しているのはよくわかっている。
 けれども焦らすような弄ぶような仕打ちについ涙がこぼれてしまう。
 その涙がいっそういじらしく、鳩羽は再び背中から綾を抱きしめて、深く突き上げた。
 「あぁ・・・・・っ」
 もう他のことなど何も考えられず、綾は快感に打ちふるえて声を上げた。
 そしてしっとりと汗ばむ身体が、その場に崩れ落ちた。



 情事の余韻も醒めやらぬまま、突然鳩羽は茶室の襖を開け放った。
 不敵な笑みを浮かべながら呟く。
 「ふ......よくまだこの場にいられたな」
 「........!!」
 何と襖一枚隔てたところに、巴が立っていたのだ。
 綾は声にならない叫び声を上げて、巴の視界から逃れようとした。

 ・・・・ふたりの情事の途中から茶室にやってきた巴は、その場から身動きできずにいた。
 綾を翻弄する鳩羽の声......甘く苦しげな綾の吐息を聞いているうちに、巴の心は氷のように固まり、どうすることもできなかった。
 綾を惑わし、綾を泣かせて、なお自信たっぷりに自分を見下ろすこの男を、心底憎いと巴は思った。

 「・・・・あなたは、本当に綾先輩のことを好きで・・・・愛して抱いてるんですか・・・・?」
 「なに?」
 鳩羽の眉根が険しく動く。
 「そんなの、ただの”性愛”なんじゃないですか・・・・!?」
 
 「・・・・・・」
 とてつもなく恥ずかしいところを見られた綾は、俯いて黙り込むことしかできなかった。

 「バカか、おまえは」
 悪びれもせず鳩羽が言った。
 「何だと?」
 巴が怒りを顕わにする。

 「俺たちのことを知りもしないで、自分がちょっと垣間見たことを感情的に口にしやがって。
 綾はお前の幻想の中の聖女でもご立派なお姫様でも何でもない、ただの生身の女なんだよ。
 俺に抱かれれば感じて声も上げるし、我も忘れる......。
 そして誰であろうと俺たちの間に入り込むスキ間はないんだよ。 わかったら、とっとと出てけ....!」
 
 「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 あまりの衝撃と悔しさに身震いしながら、巴は茶室を飛び出した。

 「・・・・あなたが彼をここへ呼んだの!?」
 「そうだ」
 「わかってて、私を抱くなんてひどい.....」
 綾の目に涙がにじむ。
 「あいつにあきらめせるためにはこれぐらいしなきゃダメなんだよ」
 「こんなの、ひど過ぎる・・・・!」
 更に抗議しようとする綾の口唇を自分の口唇でふさぐ。
 そして抗う綾の両手首を押さえつけた。

 「まだお前は何にもわかってないな、男のことを。
 こうでもしないとあいつは何度でもお前を追ってくる。幻想を抱えたままな。
 ・・・・それに俺にとって邪魔な奴は徹底的に叩きのめすだけだ」
 
 鳩羽の強い視線に射すくめられ、綾は力を失っていった。
 そして鳩羽は、掴んでいた手首の力を緩め、今度は優しい口づけをした。

 「誰も入り込めないんだ......俺たちの間には」




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